伊藤伸平合衆国滞在始末
Part 5

シアトル編


10月1日 金曜日
 本日は紀子さんの案内でマイクロソフト社の見学に行く。マイクロソフト社はフレックスタイム制を採用しており、勤務時間は自由なんだそうだ。紀子さんのクルマでマイクロソフト本社へ向かう。このHP用に本社前で絵になる写真を一枚と思ったが、本社の敷地は広大で門から社屋までクルマで数分かかるうえ、社屋がひとつじゃない。っつーかコレはもう小っちゃな街ひとつ分のスケール。とりあえず、いくつもあるうちの手近な入口の門の前でオノボリさんよろしく写真を撮る。

マイクロソフト本社前にて。もー、オノボりさん丸出し。だってオノボりさんなんだもぉーん。で、小さな街ひとつ分に匹敵する敷地を持つマイクロソフトには、こういう門が他にいくつもあるらしい。

のちに独禁法訴訟絡みのニュースでもう一度この門を拝む事になろうとは誰も予想だにしちゃいない。門番がいるわけでもなく出入り自由のマイクロソフト、しかしきっと連絡をうけていない者が入ろうとすると物陰からレーザーで狙撃される…とオモシロいのになあ。
受付で名前の入った通行証をもらう。紙製のシールできっと毎日何人もの見学者が訪れるのだろうことをうかがわせると見せかけて、ココに仕込まれた超超超小型マイクロチップから発せられる電波で侵入者と見学者を見分けているに違いない。侵入者と見なされれば即、各所に配置されているであろう警備用武装ロボットの発する殺人電波によって黒焦げにされるのだひえええええっタイヘンな所へ来てしまったきゃほほ〜い♪大はしゃぎのヒゲ中年である。

受付で通行証をもらう。一行4人中、俺を含む3人までがMacユーザーだ!

 広い建物の中を案内してもらう。廊下をつたい、社屋から社屋へ渡り廊下をまたつたって絶対にひとりでは帰れないところまで来てしまった。みんなとはぐれたりしてうっかり軍事最高機密を研究している部屋なんかに迷いこんだりしようものなら脳内にマイクロチップを埋め込まれて恐怖も苦痛も知らぬ無敵の超兵士に改造され、グァテマラあたりの密林で日夜共産ゲリラを殺戮する任務に明け暮れるのだ。しかし戦闘中の事故で人間としての心が目覚め、戦災で母をなくした少女を父親の許へ届けるため3000キロの道のりをひた走る、待ち受けるは敵と味方の精鋭部隊、小さな命を守るため愛と勇気の炎を燃やせデンジデンジデンジデンジおーーっ!!もっナンだかさっぱりわかんないっっ!……こう、ハシゃいだ気持ちがアレしてるのを、感じ取ってもらえればソレでイイです。

 着いた先は小っちゃい会議室みたいな所。ここでマイクロソフト有志のみなさんがミニお茶会を開いてくれた。ニッポン漫画はちゃくちゃくとアメリカの頭脳を侵略してファンを増やしているのだった。「文化侵略だ」とヌカしておったデンヴァーのオタクが心配するのも無理はない。もっとも一番ハゲしくシンリャクしとるのはアメリカなんだけどな。国土が広く資源も豊かな国で暮らしてると外に目を向けるのにたいへんな努力がいるのかも知れない。つーか国内だけでも見るべきところが多すぎて全部見てまわらんうちに年とって死んじゃう人続出なんだろうな。お茶を飲みダベっているうちにミニ質疑応答が始まり、なんだかコンヴェンションの続きみたいだ。ミニサイン会まで始まった。アイアンキャットから出ている英訳版の「楽勝!ハイパー。ドール」の本を持ってきている人もいる。ありがたい事である。

マイクロソフトの“漫研”の人たち。いやマジで。さすがというかオタクの殿堂。ニッポン漫画ファンのひと達がちょっとしたお茶会を開いてくれた。

アメリカの漫画本と言うのは一冊24頁のペラッペラの小冊子といったカンジのもので、コレが一冊2ドル95セントする。約300円チョイ、外国の金銭感覚は単純にレート換算で置き換えられないところがあるのでハッキリしたコトぁ言えないが、アメリカの300円ったらけっこうなお値段だと思う。いづれにせよ漫画が庶民の娯楽として浸透している日本では考えられない価格設定だ。発行部数も数千単位で、所謂「マンガ雑誌」と言うものも存在しない。個別の漫画が小冊子形式で製本されるから一作を流通させるための制作経費も高くつくのだろう。ハリウッドを抱え、映画の入場料が安いアメリカでは、ニッポン漫画が浸透してきたと言っても出版物に限って言えば、所詮まだまだ一部の好事家の“趣味”のレベルなのだと思う。

話も盛り上がり我々の仕事のしかたなんかにも質問が出る。

「コンピュータを仕事に使うことはありますか?」

この時点では俺はパソコンを持っていなかった。今でも打ち合わせの段取りにメールを使うぐらいで、製作の仕事には一切使っていない。っつーか使えないのね。 おだぎみをはかなり以前から彩色一切をパソコンでやっている。今ではすっかりフォトショップ大魔王だ。
蛮ちゃんは実は自分ではほとんどパソコンをいじらない。仕事場には籔さんのパソコンがあるのだが、多くの人同様ローマ字入力に設定してある。このローマ字入力というのが英語を話す蛮ちゃんにはとてもまぎらわしいのだそうだ。かなり早い段階で挫折して、今では入力は夫まかせ、自分は「音声入力式パソコン」を所持しているのだとうそぶいておる。
で、ここシアトルはマイクロソフト本社社屋の奥ふかくに腰掛けて、茶ぁすすってる4人のうち俺を除く3人が3人とも使っているパソコンがマッキントッシュなのだった。俺は叫んだね。

「They use Macintosh ! They use Macintosh !」

2回言ってやった。一瞬籔さんがマジでギョっとした顔つきでこっちを見る。コロされるかと思ったがコロされなかった。っつーかこんだけデカい企業なら殺し屋のひとりやふたり、雇ってるに違いない。コロされるのはヤツらのほうなのだ。6階にある個室のオフィスで日がなぶらぶらしているくせに時おり2〜3日姿が見えなくなる目つきの鋭い男、名前はボブとしかわからない社員がいて、そいつ絶対殺し屋、いや、ゼッタイそうだよ!狂った目つきをしている俺にマイクロソフトの人たちがフォローする。彼らのうちの何人もが元アップル社の社員だったそうで、プライヴェートではMacを使ってる人も多いんだそうだ。もちろんMacOS用のソフトを開発している部署では毎日Macを使っている、だから“心配”しなくていいから。あああ、シャレなのに…。それともフォローはどっかで聞き耳をたてていたボブを気づかってのことなのけ?そうなのけ?。

ニッポン漫画ファンのピーター。彼のオフィスにはソレ系のグッズがあふれていた。

オタクの殿堂にてオタクの人たちと記念撮影。


[Pert 6につづく]