伊藤伸平合衆国滞在始末 「またアメリカに行った。」 デンバー篇Part1

 またアメリカに行った。
 1999年 9月22日から9月26日迄はコロラド州デンバーで開かれた「日本マンガ」おタクコンベンション、ナンデスコン(ていうんだホントに。)にゲストとして参加し、同27日にワシントン州シアトルへ移動、10月6日迄観光で同地に滞在したのであった。
 その間の顛末をデンバー篇、シアトル篇に分けてお伝えしようかと思う。っつうかします、お伝え。

NANDESUKON 3  パンフレット表紙

 9月22日 水曜日

 朝5時半に目覚める。今回で渡米は4度めだが1人旅は初めてなので緊張しているからでわない。不規則な生活が巡り巡ってこれから行くコロラド州デンバー市の現地時刻である山岳部夏時間で昼の12時半に起きてしまったというコトだ。時差ボケが思いやられる。

 床屋へ行き銀行へ行くと頃はよく箱崎のシティエアターミナルへ出発する時刻。これまでアメリカ行きはいつも箱崎でチェックインしていたので今回も箱崎へ。しかし俺はまだチケットを貰っていなかった。箱崎でその旨話すと空港でチェックインするよう言われおめおめとリムジンバスで空港へ。

 雨の中飛行機は無事離陸。隣りに乗り合わせたのはロス在住の健康食品輸入コーディネーターというおっさんでサプリメントおタクの俺はクロム談義で盛り上がる。今日のフライトではロスアンゼルスとソルトレイクシティの2箇所で乗り換えねばならない俺。

 最終目的地はデンバーと言うとおっさんはイヤな映画のハナシを始める。デンバーは一名をマイルハイシティーと呼ばれるとおり標高約1マイル(1.6キロメートル)の高地にある。ある飛行機に爆弾が仕掛けられ、一定高度より低く飛ぶと爆発する仕組みになっている。アレコレあって飛行機はデンバーに降りましたとさってなハナシだそうだがタイトルはわからない。うーむ後で誰かに尋いてみよう。

 大西洋夏時間の朝8時20分、機はロスアンゼルスに到着。しかし入管は9時にならないと開かないとかで40分間機内で待機。機長が何やらトークのサービスをしているようだが何を言ってるかわかってもやっぱり笑えないんだろうな。

 入管を通って乗り継ぎの飛行機を待つ間に空港のジューススタンドでニンジンジュースを飲む。コレがデカい。既にココはアメリカ。すべての飲食物は我々にその物量で戦いを挑んで来るコトを忘れてはならない。しかもこのジュースがホンっトに生のニンジンの味しかしないのね。俺の戦いはまだ始まったばかり。

 ソルトレイク上空で明らかに異常に美しいピンク色の水が拡がっているのを見る。いったい何が起っているのじゃろう。

 ほぼ予定時刻の15時10分頃にデンバー到着。荷物を受け取りボケーっとしてるとスティーヴとステファニーが迎えに現われる。

 スティーヴはアメリカで俺の漫画を出版しているスタジオ・アイアンキャットのアート・ディレクター。南北戦争マニアでいつも被っている南軍の帽子がトレードマークだ。ステファニーは今回俺が招待されたコンベンション「ナンデスコン」のスタッフで、18の時に全米で初めてセラムンのコスプレをやったという筋金入りのアレな女性。

上段、スタジオアイアンキャット(出版社=ハイパードール)の編集者ケビン・ベネット、下段、左スティーブ・ベネット(ケビンの兄、アートディレクター)、コンベンションスタッフ・ステファニー、俺

 彼女の運転で我々の宿泊地であり、コンベンション会場でもあるホテル「シェラトンデンバー」へ向かうべく、空港の駐車場へ行くとスティーヴが手招きをする。何かと思えばクルマのフロントグリルにトリの死骸がへばりついている。

「ト、トリが死んでいるっ!」
「来る途中に突っ込んで来た。ダラスのコンベンションの時にもトリがクルマに突っ込んできたしコレはコンベンション成功のための生贄ってコトかな。幸先がいいやね。」
 生贄って自分で突っ込んで来ねえだろう。と思いつつホテルへ出発。

 着いてみればコレが綺麗なホテル。デンバー郊外にあって部屋の窓からはデンバーの中心街が遠くに一望できる。アメリカの都市は本当に緑が豊かで感じとしては杉並中野あたりが全部森林で、三鷹あたりに高台があってそこから新宿の高層ビル街を眺めている、みたいな景色。

 高層ビルの立ち並ぶ中心街は日本に住んだことのあるスティーヴに言わせるとSmaller than 中野だそうで、荷物を部屋に放りこんだ俺はそこへ夕食を食べに出掛けるのであった。

 夕食はスティヴ、ステファニーにロブが同行。彼もこのテのコンベンションの常連でイベントの司会進行係。本職はDJだとか色々聞いたが忘れた。とにかくデカいアノ人、それがロブだ。
 市内の駐車場にクルマを停め、ステーキハウスへ歩く。本当に美しい街並みだ。古い建築物と真新しいそれとが豊かな緑と相まって美事に調和している。その街を「爆破用資料」と称して写真を撮りまくる。端から見れば日本人観光客丸出しの俺が、シャッターを押す度に「爆破。」「あっアレも爆破」と呟いている事にスティーヴ達が気づく由もない。と思う。

お買い物に行ってへんな帽子を見つけた俺とステファニーとコンベンション司会者ロブ・マイルス

 さて、ステーキである。敵は早くも俺の胃袋に破壊テロを敢行せんと挑んできた。まずサラダがデカい。レタスには睡眠を促す物質が含まれているそうだが牛も昏倒せよとばかりに盛りつけられたレタスに致死量の粉チーズが振り掛けられている。スティーヴも「でけぇーっ。」と、妙に達者な日本語で驚く。っつうかアメリカ人が驚く大きさのモノ食わせんなよ。

 アメリカへ行って食い物の大きさに驚く人はよくいるが、俺はダマされねえからな。あんな巨大なピザやステーキ、人間が常食に出来るワケがねえじゃんよ。
 アレは俺達少食な日本人をかつぐためにやって見せてるだけで俺達が帰ったあとはやれやれ参ったぜトムとか言いながらソーメン食ってるに決ってるんだ、ゼッタイそうだよっ!!とか妄執に捉われながら巨大なステーキの処理にかかる。半分食った所でダウン。お店も心得たものでテイクアウト用の容器がちゃんと用意されている。だが戦いは始まったばかりだ。


 9月23日 木曜日

ゲスト欄に載った紹介記事

 大した時差ボケもなく朝9時に起床。明夕からのコンベンションまではフリータイムだ。まずはホテルの近所のデニーズで大量の朝食をかきこむ。ちょっと試したラズベリーティーが旨かった。
 毎度の事ながらスタッフの皆さん気をつかって下さる。午後からはシューティングレンジへ行く事に。

 ゲヴィンとサチコさんがこの日到着。ケヴィンはステイーヴの弟で日本在住、アイアン・キャットのエディターである。サチコさんはケヴィンの婚約者、なのだがずうっと婚約者のままだ。どうなっておるのか。
 本職はラジオのDJなのだがもう1年近くアイアン・キャットの出版物の英訳をやっている。今回は俺の通訳として来てくれた。スティーヴの日本語は俺の英語よりは達者だがやっぱりバイリンガルってワケにはいかんようだ。

 で、楽しいシューティング。スタームルガーのP90(.45口径)と何かわからん9ミリ口径を撃ちまくる。結論から言うと俺はヘタっぴいであった。ステファニーとサチコさんも挑戦。ビビる2人が可愛いぜ。でもステファニー、22LRのシングルアクションで反動に驚いて銃から手を放すのはよせ。

 夜。アメリカの食い物が三度俺を襲う。郊外にあるステーキハウス「ザ・フォート」はデンバーサミットの際、各国首脳が訪れた由緒正しいお店。往時を記念して各国首脳が座った椅子には各人の名前が彫られている。日本人だと言うとハシモトの椅子を持って来るという。
 彼は人気なかったと言えば何とクリントンのネームの入った椅子を用意してくれた。その椅子の裏にガムをくっつけたのは誰だっ!!触っちゃったじゃねえか。

デンバーサミットの時に各国首脳訪れた郊外のレストラン、FORT。

 それはそうとして前菜の量の多さよ。ガラガラ蛇のミンチはソースがうまかった。こいつとハラペーニョで既に満腹状態のところへメインディッシュのバッファローステーキが登場する。
 赤身の多いヘルシーフードってカンジなんだけど既に牛一頭食った気分の俺にはやはりキツかった。この店には乾杯の音頭が決っていて名刺大の紙に書かれたそれを、バッファローの毛皮の帽子を被って読み上げるのだそうだ。
 店員は迷わず俺の所へその帽子を持って来た。そらいじり易そうだもんな俺。で、重たいその帽子を被って絶対学校で教えないないような、発音もよくわからない単語(たぶん古語)をつっかえつっかえ読み上げなんとか乾杯の音頭をこなす。

ヘンな俺。FORTの売店にて。

 帰りのクルマで例のイヤな映画のハナシをケヴィンに話す。俺の英語をケヴィンがスティーヴに「英訳」して聞かすと「あー『エアポート’77』だソレ。」と明快な答え。明快でないらしい俺の英語。

ヘンな帽子をかぶせられてヘンな顔をする俺。
FORT店内にて。

 9月24日 金曜日

 昨夜のハラペーニョが再度俺を襲う。わかっていたっわかっていたのにっっ。
 さて先術のとうり俺はサプリメントおタク。サプリ天国アメリカは俺の夢の世界。安くて含有量の多いヴァイタミン、ミネラル、ハーブがスーパー等でも簡単に手に入る。
 今回のお目当てはホスファチジルセリン。脳を構成するリン脂質の一種で大豆などの豆類に多く含まれる。じゃマメ食やいいじゃんと思う愚か者めがっ!!急に老師の口調じゃ。この3日間で自分がどいだけマメ食ったかよう考えてみんしゃいっ!おおもう誰の口調かわからん。
 体に良さげなモノは沢山あるが毎日全部を食ってたらデブになるのだ。そこでサプリメントだが、実はコレも面白そうなモノを買い集めて全部を1日分飲むと結構胃もたれする。うう。しかしソレにもメゲずに修羅の道。本日はホテル近くのヴァイタミンショップへ行くのじゃっ!行くのじゃがその前に朝飯を食う。

 食堂のメニューにンまそうなチェリーパイを見つける。チェリーパイ!なみなみとつがれたコーヒー!!おお気分は「ツイン・ピークス」のクーパー捜査官!!ま朝からチェリーパイっつうのもアレなんでおやつに包んでもらう。
 続いて行ったヴァイタミン・ショップは渋めの品揃え。品数は多いが基本的なモノが殆んどで、最新の注目物資!みたいのはあまりない。安くて良質の健康食品が地道に根づいてると逆にこうなるのかも。
 日本じゃファンケルがそうした製品を販売し始めるまでは中身のよくわからないものが何千円何万円て値段で出廻っていて今でも健康食品売り場で幅をきかしている。ハーブ茶、ミネラルの一部に対する規制が一部緩和されたのを受けて、日本でももう少しマトモなモノがマトモな値段で手に入るようになりつつあるようだが。緩和されたって言ってもまだワケのわからない規制がヤマのようにあるんだと件の輸入コーディネーターのおっさんが憤っておられたっけな。

 さてマイルハイシティー、デンバーは高地ゆえにたいへん空気が乾燥しておる。おまけにホテルの空調が乾燥をあおり朝目覚める度に鼻の穴がカバカバになっている。起き出してしばらくすると鼻水があふれ出しハナをかむと血がまじってる毎朝っ!ステファニーも「そーそーこっち来たばっかりの時はわたしもしょっちゅう血い出してた。」
 ステファニーがハナ血を出してるとこを想像してなんだか嬉しくなる俺は変態。かも。

 ホテルの部屋は禁煙室でタバコはロビーを出た玄関先で喫わなければならない。おかげでたいそうな節煙になったが、数時間ぶりに喫うタバコはアタマをクラクラさせる。
 ぼうっとベンチに掛けているとコンベンションの参加者で、エヴァンゲリオンなんかのビデオをアメリカで配給している会社のオヤジが何故かタバコを恵んでくれた。有難く頂戴してしばし歓談。
 英語なんか喋れて当然とガイジンの俺にも早口でまくしたてる奴がアメリカ人には多いが、この人はゆっくりと易しい単語と文法使って話してくれて助かる。いい人だ。顔は恐いけど。あとでスティーヴに彼の名前を尋くとサイコ氏ーーだと?
「うそぅ。」
「いやホントに。」
「いやマジで。」
 ホントかぁー??

 夕方6時。間もなくオープニング・セレモニーが始まるというので会場へ行く。小ホールってカンじの部屋に折り畳みの椅子が並べられ、片側にステージが設けられている。
 ステージ上ではナンデスコンのロゴを形どった氷のオブジェ。ガンダムのLDボックスぐらいの氷には漢字で「何」の字が彫られているんだが、どうも少おし客席側に傾いているようだ。ステージの真下には客席を向いて数脚の椅子が…っておいっあそこにゲスト座らす気じゃねえだろうなっ!!
 オブジェにはまだ数人の職人が仕上げのために集まっており、傾きはうまく調整し終えたようだ。その後オブジェは舞台後方へ下げられ、椅子もどうやら職人の階段代わりに使っていただけのようで本番が始まる前に撤去される。あやうく頭蓋陥没頚椎破損は免がれた。

オープニングパーティのロゴオブジェ
「落ちてきそうで恐かった」

 ゲストは他に、日本在住のCGアニメーター、スコット・フレイザー。アニメ「攻殻機動隊」のスタッフも務めた。アマンダ・ウィン・リー。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の英語版で綾波レイの声をあてた。ジェイソン・リー。アマンダの旦那でスタンダップコメディアン。ティファニー・グラントは同じくアスカ役。ジュリエット・セサリオは「ああっ女神さまっ」のベルダンディー役。スコット・シンプソンは同じく森里蛍一役。マイケル・ブラディ。「クラッシャー・ジョウ」のジョウ役。ーーといった面々。

コスプレのおねえちゃんではなく、アメリカ版ビデオ「エヴァンゲリオン」でアスカの吹き替えをしたティファニーグラント(女優)

 コンベンションディレクターのベッカーが何やらゲスト達に話があるという。因みに彼女は6才まで日本で暮らして英語が全く話せなかった。音声で認識するための脳巾ネットワークは生後1才までで形成させる。日本語音声は構成要素が他の言語よりかなり少ない特異なものだそうで日本人のTOEIC平均点がアジア最低で北朝鮮にも劣るという事態の1つの原因とされている。
 ベッカーはエラく苦労したようで英語を話す外国人の気持ちはよくわかるそうだ。で、彼女が言うには今、自分は癌で余命幾許もない、でもアニメは大好きだ、ついてはサインをくれビデオもくれと言っては各地のコンベンションに現われ同情して親切にしてやると次第にストーカー化することで知られている青年が来ている、と言う。ううむアメリカ!とりあえず彼の相手をしてやってくれまいか、その後で丁重に追い返すから、というハナシらしい。サチコさんに訳してもらう。
「アマンダが絶対にヤだって言ってる。」
「俺もキチガイの相手するのヤだなー。」
 しかもアメリカのキチガイ。漫画家の皮剥いでジャケット作ったりするんだろー?

JウェーブのDJ=内田佐知子とアメリカ版エヴァンゲリオンで綾波の吹き替えをしたアマンダ・ウィン・リー、後方は講談社の田中さんではない。

 程なくオープニングセレモニーが始まる。何だか紹介されて舞台に上げられる。司会のロブは何だか尋いてくるが、ちょこちょこっと挨拶をしてそそくさと舞台を降りる。
 緊張を強いるなよロブ!体内には活性酸素が発生して細胞膜や中性脂肪を酸化させるじゃないか!!ワケのわからない呪詛を吐く。他のゲストも舞台上で一問一答。その度にアマンダが野次を飛ばす。
「脱げー。」
 アマンダは先のコンベンション「アニメエキスポ」で酔っ払ってステージに立ち、ノリでストリップをやらかした事がある。舞台裏で旦那のジェイソンは小っちゃなモニターでそれを見ていたが何が起きているのかよく解らず、家でビデオを見てひっくり返ったそうだ。
 当然夫妻が舞台に上がると脱げーの野次。しかしジェイソン慌てずおもむろに靴を脱いで客席へ放り投げる。粋だね。スコット・シンプソンらは俺の真似をしてチョコチョコっとした挨拶でとっと舞台を降りる。くそ。

 オープニングセレモニーが終ると舞台ソデで何やらサイン会が始まっている。件の癌青年らしい。俺もサインを求められる。
「Mのナナって言うんだって。」
と、サチコさん。
「Mad?」
「ワザと間違えてサインに書かないで下さいね。」
 皮を剥がれるのはイヤなので愛想よく応対する。喜こんでいる。とても人の生皮を剥ぐようには見えない。タダのイっちゃったおタク青年なんだろうなー。

「10ー34!」スタッッフのトランシーバー奪い取り、図にのる俺。

 ロビーを出てタバコを喫いに。しかし表に出てタバコを忘れた事に気づく。スコット・シンプソンがタバコを恵んでくれる。いい人じゃん。
「あなたの真似をして長い挨拶をしないですんだので助かったよ。」
 感謝された。くそう。

 ホテルの一室にスタッフのための食事部屋が用意された。鍋釜電子レンジ等が運びこまれ、適当に皿に盛って食うようになっている。早速食う。チリビーンズにラザニア。やっと自分の胃袋の正しい大きさを思い出す。
 他のゲストもいてしばし歓談。ジェイソンが新しいカクテルを試すかと尋く。バニラフレーバーのウォッカをジンジャーエールで割ったもの。旨い。甘い。女のコダマして潰す用ってカンじか。アマンダがどうやらかなり酔っ払ってるらしくサチコさんのほっぺたにキスしている。いいなあと何の気なしに呟いた俺。訳すなっ!!と思ったが遅くサチコさん、「いいなあって。」
 いじり易そうだもんな俺。計4度のキスを頂戴した。旦那目の前にいるっつうの。そのあとアマンダがショッピングセンターでからまれた障害者のハナシで盛り上がる。物真似はやめろよモノマネはっ。ま爆笑したけどさあ俺も。

アマンダは酔っている。
アマンダはまだ酔っている。いい表情の俺。

デンバー篇Part2につづく