伊藤伸平合衆国滞在始末「またアメリカに行った。」シアトル篇Part3

1999年 9月30日

 本日は市内観光。近くのバス停まで紀子さんにクルマで送ってもらう。バスの運賃は1ドル25セント。同じ路線でも曜日や時間帯で25セント前後の違いがあるようだ。ハイウェイの上からはビル・ゲイツ邸やら任天堂の会長邸やらがちらっと見えるそうだが、どれやらわからない。

 市街へ向かう途中で越えるワシントン湖には、そうは見えないが浮橋状になっているという巨大な橋が架かっており、そこを渡るハイウェイを15分ほど行くと、その時点ではのちに大魔神佐々木がそのマウンドに立つとは夢にも思わなかったシアトル・マリナーズの本拠地、キング・ドームの巨大な屋根が見えてくる。改装中のシアトル駅のわきを抜け、一行を乗せたバスは北の港湾都市、ワシントン州シアトルの市街へ。

シアトル市街に到着。

 まずは本場シアトルのスターバックスコーヒーを詣でる。最近は日本にも店鋪が増えてきたが、ここシアトルの市内はさすがにスターバックス発祥の地だけあって、そこかしこに支店がある。この年の夏に蛮ちゃんが招待されたコンベンションに着いてったテキサスのダラスでは、一軒も見つけられず、スターバックスの鬼である蛮ちゃんとおだぎみをはちょっとがっかししていたようだった。
 今回その時の仇のような数のスターバックスを目の当たりにして「もーちょっと散れよっ。」とかワケわかんないコトも考える。もっとも俺にかんしては、コーヒーなら何でもいいのだが。
 この後シアトル版のみの市とでも言うべきパイク・プレイス・マーケットへ。海っ端の街らしく海産物が豊富だが、安いのか高いのか判断がつかん。野菜やらお洋服やらもあってまさにのみの市状態。ここでおだぎみをが、俄然真剣な表情でお帽子を選びはじめる。体温はなくても女の子である。

おだぎみを。児童漫画家。
主に学習誌などで執筆。体温なしの力なし。シアトル観光中、海沿いのみやげ物屋街にて。

 俺は加藤礼次朗(バカ)へのおみやげにヘンなカエルのぬいぐるみを買う。本人はあまり意識していないようだが、加藤礼次朗(バカ)はけっこうカエルグッズが好きで、彼の部屋にはそこここにカエルグッズが置かれている。
 ホントは礼次朗(バカ)は、今回俺がアメリカへ行くと聞いて、「アイアン・ジャイアント」のおもちゃを買って来いとぬかしやがったのだった。「アイアン・ジャイアント」ったらこの春、全国の漢(おとこ)の心を熱く揺さぶった、あの「アイアン・ジャイアント」だ。

 しかし当時日本には、内容についての情報は全くと言っていいほど入って来ていなかった。当の礼次朗(バカ)も、この年の夏にアメリカで公開され、大コケしたアニメ映画だという事くらいしか知らず、ただそれまでのスター・ウォーズグッズコレクションの延長として、「エピソード1」(最初の所謂「『スター・ウォーズ』)のメカ・デザイナー、ジョ-・ジョンストンがデザインしたロボットのおもちゃが欲しかったというだけの事だ。
 これまでも、誰かが香港へ行くと聞けばダレそれの漫画を買って来いだアメリカへ行くと聞けばこのおもちゃを買って来いだと人を並行輸入業者にしておのれの欲望を満たしてきたオトコである。俺も買い物のひとつやふたつ頼まれてやるのにやぶさかではなかったが、ひとつ、気になる事があったので礼次朗(バカ)に尋ねた。
「“アイアン・ジャイアント”? ソレ、どンくらいの大きさなんだよ。」
 口を突がらかせて礼次朗(バカ)は答えた。
「ジ…ジャイアント。」

 成田で他人のジャイアントな荷物を抱えて入国審査の行列に並ぶ俺の姿を想像する。却下却下。おみやげはカエルに決定。このカエル、大きさは本物のヒキガエルくらいで鮮やかなグリーンにスパンコールがていねいに貼られた手作りのぬいぐるみ。中に砂でも入っているのかズッシリとした手ごたえと生地の手触りが心地よい。頼まれ事を拒否した引け目から言うんではないが、カエル好きにはたまらん逸品と思うがどうか。
 シアトルの市街は、オリンピック半島をはさんだピュージェット湾に面する人工の丘の斜面に形成されている。ここにはもともと別の街があったのだが、疫病が流行ったためいったん埋めちゃって、その上に現在のシアトルの街が作られたんだそうだ。今も地下に街の一部が残っていて、そこを巡るツアーもあるのだとか。
 だからかどうか、海に近いパイク・プレイス・マーケットは、陸側は1階から入るが、海側に行くに従って地階が出来て行く、まことに複雑な構造になっている。地階に降りても海側には窓があるのがおかしな気分だ。
 その、地下の駄菓子屋で買ったキャラメルのかかったポップ・コーンが絶品であった。日本に「キャラメル・コーン」というお菓子があるが、アレがやりたかったコトってこーゆーコトなんだろーなー、でももっとガンバりましょーってカンジ。いや、アレを食べにもっぺんシアトルに戻ってもイイぐらいなカンジだ。
 12時間後には東海村の核燃料施設で臨界事故が発生し、帰る国が無くなるかも知れないコトなどつゆ知らず、うまいうまいとポップ・コーンをむさぼりつつ最下層階から海側へ出ると、そこはやっぱり1階なのであった。

 海沿いの通りには、みやげ物屋やら軽食屋やらが立ち並び、シアトル港内を一周する遊覧船の乗り場もこの並びにある。遊覧船の出航を待つあいだみやげ物屋をひやかして歩く。
 Y2Kバグ人形というバイキンマンみたいなマスコットがやたらと並んでいる。デンヴァーでも見かけたこの人形、全然話題になってないし売れてる様子もない。“作りすぎ”ちゃったんだろうなあー、メーカーの責任者、ヤケ起こしてクルマでレストランとかに突っ込んで、事故かと思って助けに駆け寄った店の客30人ばっか撃ち殺したあと拳銃自殺したりするんかなー、とかいう想像があんまりシャレにならないここはアメリカ。そのメーカー、どっかニューハンプシャーとかロードアイランドとか遠ぉ~くの州にあるといいなー。

遊覧船に乗ってシアトル港内一週へ。


遊覧船上からシアトル市街を臨む。

遊覧船の乗り口でイチャつくラーメン夫妻。


港のクレーンと巨大おやじ。
好天で被写界深度が深くなりこんな画になった。

遊覧船のデッキでイチャつくラーメン夫妻。

 蛮ちゃんは11歳までここシアトルに暮らしていた。シアトルの街もその後何度か訪れた事があって、ここいらのコトはよく知っている。
「ここらへんにミイラの置いてあるお店があるよ。」
「ミイラ?」
 状況がわからない。みやげ物屋にミイラが置いてあるってソレは売り物なのかい。どーゆー状況をゆっているんだこの髪を黄色に染めたオンナは、“金色”じゃなくて“黄色”だぞ、ソレってダラスのコンベンションでピカチュウのコスプレするために染めたやつだろ、夏に染めていまだに黄色ってこたどーいう…、あっっ普段から何度もピカチュウ色に染め直してるんかこのオンナわっ、ええい狂っとるっみんな狂っとるのじゃ! と呟いていると、ミイラがあった。みやげ物屋の片隅にガラスケースに飾られておった。どうやら先住民のものらしい。死体じゃん。いいのかよ、見世物で。あああああ赤ん坊のミイラまでっ。狂っとる、みんな狂っとるのじゃ。

シアトル篇Part4 につづく